【2025冬・キャンペーンブログ vol.3】国境紛争が落とす影 カンボジア自立支援の「今」
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執筆:啓発事業部インターン 吉村未菜美 |

カンボジアには不発弾と地雷という「二重の負の遺産」が残っています。ベトナム戦争とカンボジア内戦を原因とする負の遺産。内戦が終結して20年以上が経過した今も、これらはカンボジアの人々の生活を脅かし、貧困の連鎖を生んでいます。
さらに、今年の7月から激化したタイ=カンボジア国境紛争が、カンボジアに住む人々にとって大きな脅威となっています。
12月9日に実施したオンラインイベントでは、国境紛争以後の現地の状況をご報告しつつ、現在進めている農協の運営強化支援や、今年開始した農村変革リーダー育成プロジェクトの状況について、駐在員・津田がお話ししました。
本記事ではテラ・ルネッサンスのカンボジア支援の歴史的背景、最近の国境紛争による影響、そして私たちが行っている支援についてお伝えします。
〇「二重の負の遺産」:なぜ今も支援が必要なのか
カンボジアに根強く残る負の遺産の背景には、冷戦時代の複雑な歴史があります。はじまりはベトナム戦争でした。フランスからの独立過程で南北に分裂したベトナムは、ソ連やアメリカなどの支援を受けながら、争いました。北ベトナム軍が物資補給路(ホーチミン・ルート)としてカンボジアの領土を利用したため、アメリカはこれを封鎖するために、周辺地域を激しく空爆しました。その時の不発弾が今もなおカンボジア東部に残っているのです。
また、この空爆による混乱に乗じて、北ベトナムの支援を受けたクメール・ルージュ(ポル・ポト派)が勢力を拡大しました。彼らは政権崩壊後、タイ国境付近へ逃げ込み、新政権に対して激しいゲリラ戦を展開しました。その際、追っ手を阻むために約400〜600万個の地雷が無差別に埋設されたと言われています。
これらの「不発弾」と「地雷」という「負の遺産」のリスクによって、現地の人々は安全に農地を耕すことができません。これが、カンボジアの農村部が貧困から抜け出せない根本的な要因となっているのです。

【カンボジアにおける地雷および不発弾の推定残存数と分布】
〇タイ=カンボジア国境紛争の影響
こうした歴史的背景に加え、2025年7月よりタイ=カンボジアの国境で軍事衝突が激化しました。この対立の根底にあるのは、植民地時代にフランスが作成した地図の解釈や、世界遺産「プレアビヒア寺院」の領有権をめぐる問題だと言われています。国際司法裁判所(ICJ)の判決や第三国の仲介による停戦合意はこれまで何度か行われてきましたが、今年に入って再び緊張が高まっています。
これを受けて、国境地帯の住民が避難を余儀なくされたほか、タイで移民労働者として働いていたカンボジア人約91万人が一斉に国へ帰還しました。しかし、カンボジア国内の雇用の受け皿は約19万人分にとどまっており、残りの人々の生活がどうなるのか、社会的な不安が広がっています。バッタンバン州では、行政が避難キャンプへ物資を送り、寄付を呼びかけるなどの緊急対応を行っていますが、根本的な解決にはまだ遠い状況です。
〇紛争勃発時の緊急対応
7月の軍事衝突を受け、テラ・ルネッサンスは直ちに緊急支援を実施しました。行政による避難キャンプへの援助は始まっていましたが、地域の脆弱層やタイから帰還した人々には十分な支援が行き届いていなかったためです。特に貧困層が多い地域では、紛争の影響で国境付近の日雇い仕事がなくなり、収入源が途絶えてしまっていました。そこで私たちは1世帯につき50kgのお米を、これまで私たちが支援してきたプレアプット村の101世帯、ロカブッス村の92世帯、サムロート郡の40世帯に届けました。
7月末には外務省の危険レベルが3(渡航中止勧告)に引き上げられ、国境から30km圏内への渡航が制限されました。しかし、これまで共に活動してきた現地のコミュニティリーダーと連携することで、支援を継続することができました。


【プレアプット村人の自宅の様子】
〇自立支援の成果と現場
テラ・ルネッサンスのカンボジアでの活動は、地雷撤去への寄付を集めることから始まりました。しかし、地雷埋設地域の農家が、収入の大部分を国際価格に左右される輸出作物だけに頼るリスクを目の当たりにし、収入源を多様化するための自立支援へと活動を拡大しました。現在は家畜の飼育や野菜栽培などの支援を通じ、生活の安定を図っています。
これらの活動は、現地の人々のレジリエンス(回復力)向上に直結しています。食料調達が難しくなるような危機が起きても、家畜や野菜を自家消費することで、支出を抑えながら生活を守ることができるからです。
その中でもここ3年ほどは農業協同組合(農協)の運営強化を通じた次世代育成に注力しています。バッタンバン州サムロート郡にあるバイトーン農協の周辺は、最後まで紛争が続いた影響もあり、今も経済的な脆弱さが残る地域です。農協の運営も、幹部の高齢化や後継者不足という課題に直面していました。そこでテラ・ルネッサンスは、私たちが行ってきた家畜飼育による生活向上支援の経験を活かし、農協の近くのコミュニティから若い世代の農協職員を雇用し、彼らを3年間育成するという事業を開始しました。2026年1月に支援は終了しますが、その後も農協が自走できるよう、商品の製造・販売や、会計・法務・財務といった運営訓練を続けています。
【オンラインイベントの様子。駐在員津田が現場の「今」を語る。】
〇未来への挑戦
さらに2025年2月からは、新たな挑戦として農村社会変革リーダー育成事業を開始しました。農村の貧困層の若者を施設に受け入れ、1年間住み込みで農業や畜産、マネジメント、販売の訓練を行っています。彼らが村に戻ったあと、学んだ実践を周囲に広め、村全体の生活向上を牽引するリーダーとなる未来を見据えています。
カンボジアの自立した未来、そして紛争や貧困に屈しないレジリエンスを育むため、私たちはこれからも活動を続けてまいります 。紛争の影が濃くなる今、現地の人々が自力で課題を解決できる未来を実現するため、皆さまのあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。
〇冬季募金キャンペーン2025「紛争を終わらせる。~その歩みを止めないために~

テラ・ルネッサンスでは2025年11月11日から2026年1月15日まで冬季募金キャンペーンを実施しています。
皆さまからお寄せいただいたご寄付は、今、世界で起こっている紛争を一つでも終わらせるために、そして、紛争の被害を受けた方々の自立支援をはじめ、テラ・ルネッサンスのすべての事業で、大切に使わせていただきます。
長年続く紛争を終わらせる。これはテラ・ルネッサンスの「願い」でもあり「誓い」です。そのために皆さんの力をお貸しください。
▼冬季募金キャンペーン2025▼
[実施期間]11/11 - 1/15
[目標金額]50,000,000円
詳細はこちら:
https://www.terra-r.jp/tokibokin2025.html











