【カンボジア】「三方よし」なるか?カンボジア農協の奮闘
【2025年11月 活動レポート/カンボジア】
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2023年からバッタンバン州サムロート郡で実施している農業協同組合運営能力強化支援事業は、終了まで残り2ヶ月となりました。
事業開始から2年10ヶ月、幹部の高齢化が進んでいた農協に、働き世代の新規農協職員を雇用し、彼らに農協の運営に必要なスキルを指導してきました。現在、これまで指導してきた内容を、農協職員のみで実行し続けられるよう、おさらいするフェーズに入っています。
そこで、今月は農協職員たちにテラ・ルネッサンスの事務所に来てもらい、3日間盛りだくさんの訓練を実施しました!
訓練の様子の一部を、掻い摘んでお伝えしたいと思います。
少し細かい内容になりますが、農協職員たちのリアルな奮闘にお付き合いください!
1)三方良し、ワークショップ実施準備
農協の使命(ビジョン)は、2012年の設立当初から、「自然な農業を促進し、組合員の農家がより良い生活をできるようにすること」です。
このビジョンを踏まえて、本事業でも農協組合員や経済的に脆弱な地域住民が生活向上できるための活動として、家畜飼育支援制度*を行っています。
しかし、事業を進める中で、せっかく家畜を飼育しても、繁殖が極端に遅かったり、子が生まれても死んでしまうといった事態が散見されました。
テラ・ルネッサンスとしても、同様の事業を他の地域で実施した時には見られなかった現象でした。原因を探ってみると、どうやら除草剤や農薬を家畜小屋付近に散布していることが原因だとわかりました。
サムロート地域では、ドリアンやランブータン、アボカドなどの果樹栽培が盛んで、家の敷地内に果樹を植えている世帯が多くあります。しかし、家畜小屋も家の敷地内、つまり果樹の近くにあるため、果樹を開花させるための農薬を散布したり、新しく果樹を植えるために家畜小屋の付近に除草剤を撒いている世帯が多かったのです。家の敷地自体は狭く、畑は別の場所にあることが多い他地域では、目立ちにくかった現象でした。
本事業では、元々農薬のリスクを啓発するワークショップをしたり、地域にある果物や薬草を発酵させた肥料や農協で製造した堆肥などの使用を促進していましたが、中々村の人の理解は得られずにいました。
そこで、今年のワークショップのテーマを「農薬散布による家畜への被害と、バイトーン農協で製造した有機肥料使用のススメ」とし、家畜に被害があった事例を紹介し、農協が販売する有機肥料で代替可能なことを村の人に分かってもらうことをゴールとしました。
この日は、まず農協職員が訓練内容を理解するため、農薬散布で家畜が死んでしまった事例をまとめたり、農協が製造する有機肥料の使い方などを復習したりと準備をしました。
ワークショップにより農協の商品が売れれば、農協としても収入になります。農協は収入を得て、村の人は家畜の繁殖が進み人間への健康被害も減り、環境負荷は少なくなる。まさに「三方よし」の状態を目指して、来月はいよいよ農協職員が村の人に対してワークショップを行います。
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【ワークショップ準備の様子】
*家畜飼育支援制度とは、脆弱な世帯に農協が家畜を貸し出し、家畜が繁殖したら、農協が貸し出した家畜の頭数に利子分の頭数を加えたものを返却してもらい、返却された家畜をまた他の脆弱な世帯に貸し出す制度です。
2)耳が痛い!けれどみんなで財務を把握しよう
農協では、本事業の3年間で家畜飼育支援制度を運営できるようになると同時に、農協が製造する肥料や家畜の商品収益を資金源として、財政的に自立することが目標です。
これまで製造技術の習得、商品化、オンラインマーケティング、直接営業などと頑張ってきましたが、まだまだ十分な収益は得られていません。
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【農協で製造している作物用有機発酵液(液肥)の宣伝活動】
これまで毎月の会議で売上目標を決めたり財務状況を確認する会議をしてきましたが、農協職員たちは、日々の仕事に一生懸命で、現状の把握ができていない状態です。
そこで、基礎的な財務管理のワークショップを行いました。月毎の支出・収入・残高を確認して、お金がなくならないようにすること、お金がなくなったら何がまずいのか、お金がなくならないためにどうやって計画を立てるかを分かってもらうことが目標です。
実際に10月の収支を確認してみると、190ドルのマイナス。残高は、来月には底をつきそうです。
農協職員たちはなぜかニンマリ、気まずそうにしています。さらに、
「今はテラ・ルネッサンスが支援している皆さんの給料は、今後農協の資金で払わなければなりませんが、そのためにはどのくらい収入を増やす必要がありますか〜?」と聞くと、その額に愕然とした様子でした。
「事業が終わる頃には自分たちの給与を自分たちで稼いでね」とは以前から伝えていることですが、中々まだ売上に繋がらない状況下で、彼らの耳が痛い気持ちはとてもわかります。
今はまだ商品の認知を高める段階のため、活動が前進していれば収支がマイナスの月もあって良いのですが、そのためには農協職員が自分たちで「ではどうすればいいか?」を考え実行し続けなければなりません。
そこで、普段のんびりしている私が言うのは非常に恐縮なのですが、P(Plan:計画)→D(Do:実行)→C(Check:評価)→A(Action:改善)考え方を紹介しました。計画を立て、やってみて、問題があれば原因を突き止めて改善することが大事、と言う話です。
農協職員たちは大学に行った人もいれば、ビジネスセンスはあまりないけれど力仕事や家畜の世話に長けている人など様々なバックグラウンドを持っています。だからこそ村の活動では多様な才能が光るのですが、PDCAの話は、彼ら全員にまとめてしても分かってもらえるか不安でした。
しかし、「農協の商品や家畜を販売する」というみんなに共通する現実の問題を例に話すと、少しずつ分かってもらえたようで安心しました。
できていることはたくさんあるものの、目標には届いていない現実。
農協職員たちにとっては耳が痛いですが、「今月もできなかったね…」という状態がなんとなく続いていかないよう、自分たちで改善していくためのサポートを続けます。
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記事執筆
海外事業部 カンボジア事業
津田理沙







