『景色はつながる』05.カンボジア

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『景色はつながる』05.カンボジア

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『景色はつながる』は、冬季募金キャンペーン『この景色の先に。』は、期間中に配信する特別連載ブログです。本シリーズでは、様々なことを乗り越え一歩ずつ進んできたからこそ見えるものを「景色」とし、テラ・ルネッサンスが支援する方々が「これまで見てきた景色」、そして「今見えている景色」をお伝えします。

 

第5弾の『景色はつながる』では、カンボジア・バッタンバン州カムリエン郡における支援対象者の、メイ・ソーンさんをご紹介します。当地域では、地雷撤去後の土地で生活する人々をサポートするため、「地雷埋設地域の脆弱な障害者世帯への生計向上支援」を実施しています。

 

ソーンさんのこれまでの道のりをカンボジア事業の歩みと照らし合わせると、自立に向けて歩み出した先にある、人との「つながり」を取り巻く景色が見えてきます。家族、そしてコミュニティとのつながりをつくり出すまでの道のりと、その先にたどり着くことができる新たな景色。

 

これを読んでくださる方の中には、長引くコロナ禍の中で、閉塞感や孤独感を拭えない方もいると思います。しかし、その中で歩みを重ねることで、また出会いとつながりが生まれるはず。

 

本ブログを通して、誰かと手を取り歩んだ末に目にする「景色」を、皆さまの中に想い浮かべていただければ幸いです。ぜひ、ご一読ください。

苦難を乗り越え、踏み出した一歩

メイ・ソーンさんは、奥さんとお孫さんの3人で暮らしています。1996年に、戦場から戻る途中で地雷を踏み、左脚の膝から下を失いました。

 

テラ・ルネッサンスが初めて出会った頃の彼は、仕事もなく精神的に塞ぎ込んだ状態で、お酒を大量に飲んだり、あてもなく友達と出歩いたりして日々を過ごしていました。奥さんが日雇い労働をすることでなんとか生活していましたが、彼自身の心も家族関係もバラバラな状態が続いてました。

 

ソーンさんがそのような状況から一歩を踏み出したのは、2017年のこと。テラ・ルネッサンスの養鶏訓練に参加し、飼育用の鶏5羽の貸し出しも受け始めました。最初は訓練の内容に半信半疑だったソーンさんでしたが、習ったことを実践していくうちにその効果がわかり、熱心に訓練に参加するようになりました。

 

2020年には75羽の鶏からUS$725(日本円で約7万5千円)を、また2年目から貸し出しを受けたヤギからUS$1,000(日本円で約10万円)もの収入を得ることができました。また雨季には、野菜栽培による収入もUS$2.5(日本円で約260円)*ほど日々安定して得ることができています。

 

*バッタンバン(州)では、0.5USDで缶ジュースが一本買えるくらいの物価です。

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【訓練で教わった薬草の発酵液を使った養鶏で、鶏の飼育ができるようになったソーンさん】

そして、手にした成果は収入だけにとどまりません。

 

「自分で毎日できる仕事ができて、とても嬉しかった。」そう語るソーンさんは、家畜の飼育を始めてから、だんだんお酒を飲む量も少なくなりました。出稼ぎに行っていた奥さんも家畜飼育や野菜栽培を手伝ってくれるようになり、家族と共に過ごす時間が増えたことで、幸せを感じられるようになったそうです。

 

受け身ではなく自らすすんで技術を習得しようと努力した結果、自分との、そして家族とのつながりを取り戻したのです。そして、彼を中心としたつながりの輪は、さらに広がっていきます。

周りと助け合いながら掴んだ景色


コミュニティのモデル農家となったソーンさんは、養鶏がうまくいかない人たちにアドバイスをするようになりました。さらに、探究心の旺盛さから、自分で試行錯誤して養鶏や家庭菜園に取り組み、自身で改良を重ねた薬草発酵液を使って近所で病気になった鶏を治療したり、その発酵液を近所の人に分け与えたりしています。その結果、お返しにスイーツや飲み物、フルーツをもらうなど、近所の人びととのコミュニケーションが活発になりました。

 

家畜飼育や家庭菜園を始め、地道に歩みを進めたソーンさんは、彼自身の変化だけでなく、家族やご近所さんとの関係における変化を生み出すことができました。

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椅子に座っている男性がソーンさん。モデル農家として養鶏のコツを他のメンバーに教えている

一つの明るい景色に辿り着いたソーンさんですが、困難は現在も降りかかります。例えば、2020年1月、隣人が散布した農薬で鶏が大量に死んでしまいました。しかし、ソーンさんは決して諦めませんでした。生き残った数羽の鶏を繁殖させ、お得意の薬草発酵液で死亡率を低く抑えながら、着実に数を増やしています。

 

自分自身の困難を乗り越え、新たな困難にもめげることなく立ち向かう力強さ。そして、努力を重ねる中で、家族だけでなく近所の人たちをも支えようとする温かさとしなやかさ。ソーンさんのこれまでの道のりと現在の景色は、自立とは決して孤独な道のりではなく、周りの人たちを巻き込みながら、目指す景色に向かって一緒に進んでいくものだということを教えてくれます。

共に歩み、共に生きる

 

ソーンさんの今日までの歩みは、弊会アジア事業マネージャーの江角が語る「平和」の在り方を体現しています。

江角は、これまでを振り返ってこう話します。

「”森の人”と呼ばれたカンボジアの人たちが、お金を持たずともいかに分かち合い、助け合いながら自然と調和して生きてきたかを教えてもらいました。そこで、学んだことは、

"人間は一人では生きられない。人間だけでも生きられない。"

ということです。

昔と全く同じ生活をしていくことは難しいかもしれません。しかし、自然の中で共生しながら、分かち合い、助け合って生きてきたカンボジアの人々の暮らしを取り戻し、今の時代に合った形で活用すること。それが、私の考える “平和” のカタチであり、テラ・ルネッサンスで働くことを通して、追い続けていくものです。」

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カンボジアの家庭菜園に励む世帯と弊会江角(右から二人目)

貧困に苦しむ人びとへの支援は、十分で安定した収入を確保できるようになればいいというものではないと、テラ・ルネッサンスは考えています。コロナ禍も含め、様々な困難が生じる環境の中で、人とのつながり、そして自然との共生が私たちの日常を根源的に支えてくれている。そのことを、メイ・ソーンさんとカンボジア事業は伝えてくれています。

「自立」から「自治」のステップへ


テラ・ルネッサンスは、「自立と自治の促進」という支援哲学を大切にしています。弊会が考える「自立」とは、周囲との関係性の中で自分らしく生きること。そして「自治」とは、自立した一人ひとりが、地域の課題に対して主体性をもって取り組むことです。
 
カンボジアでは、ソーンさんをはじめとする多くの村人たちが、持続可能な形で収入を得られるようになりました。村人同士の分かち合い、助け合いによって信頼関係も深まっており、ひとり一人が少しずつ「自立」という景色にたどり着き始めています。そして、それぞれの景色が、互いに分かち合い、助け合うというカンボジアならではの彩りでつながっています。
 
その一方で、「自治」の部分は、まだまだ強めていけると私たちは考えます。それは、自立した人々が、村の中でさらにつながり、より良い関係性を育むこと。そして伝統的にその地域にある自然などを持続可能な形で活かして生きることです。
 
現在の彼らのつながりは、お互いの「自立」を後押しし、「自治」という、より大きく力強い景色に向かう原動力になるでしょう。その新たな景色を目指し、私たちはこれからも、村人たちと共にカンボジア事業を進めていきます。

◆◇ 冬季募金キャンペーン2021 ◇◆ 実施中!

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紛争被害や貧困などの大きな困難は、時に人を孤独にします。他者とのつながりを失うことは、私たちの生活から生命力や心のあたたかさを奪ってしまいます。これは、きっと昨今のコロナ禍でも、多くの方々が感じていることでしょう。

 

しかしメイ・ソーンさんのように、前を向いて少しずつできることを積み重ねることで、誰に言われずとも、ふと周りを見渡せるようになることがあるのではないでしょうか。そして、一回の助け合いが、連なり、広がっていき、手を取り合って新たな景色に向かって進むことが出来ます。

 

つながりは、取り戻せる。そしてそれは、自立、そして自治への大きな推進力となる。カンボジア事業は、そのような希望を私たちにも伝えてくれます。

 

私たちはこれからも、一歩を踏み出そうとするひとり一人とそのコミュニティの背中を押し、自立と自治に向けて共に歩んでいけるよう、活動を続けてまいります。

 

テラ・ルネッサンスでは、2021年11月18日から2022年1月12日まで、冬季募金キャンペーンを実施しています。アジア・アフリカの紛争被害者の方々の自立に向けた歩みを支える、弊会の活動を継続していくために、この期間に【2,000万円】のご寄付を必要としています。

彼らと共に新たな「景色」にたどり着くための支援に、寄付という形で、皆さまにご協力いただけますと幸いです。

 

 

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記事執筆/

啓発事業部インターン 田代啓
啓発事業部インターン 高木瑞希

執筆サポート/
啓発事業部スタッフ 津田理沙
啓発事業部インターン 小川さくら

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