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中国が武器貿易条約に加入した背景を分析【武器貿易条約(ATT)関連レポート_2020年7月_vol.2】

 
政策アドバイザーの榎本珠良です。先日、中国がATT加入の手続きを行いました。これで中国は107番目のATT締約国になり、ATTは10月4日に同国に対して効力を生じます。<中国の加入をお伝えした昨日の投稿はこちら

なぜ、中国はATTに加入したのか?中国ってATT反対派じゃなかったの?


まず、日本語・英語のメディアで盛んに指摘されている「背景」は、最近の米中関係です。アメリカのトランプ政権は、2019年4月にATT署名を撤回することを表明し 、同年8月にはロシアとのINF条約(中距離核戦力全廃条約)を離脱し、2020年5月にはオープンスカイズ条約(領空開放条約)からの離脱を表明しました。


中国の動向は、アメリカを軍備管理関連分野の多国間協調や国際規範を軽視する国として批判すると同時に、翻って中国は多国間協調や国際規範の形成・維持に貢献する「責任ある大国」なのだとアピールしようとする意図があるとの見方が広範に見られます。また、中国の行動のより広い背景として、近年の米中間の覇権争いないし「新冷戦」と呼ばれる状況を挙げることもできます。

ただし、中国によるATT加入は、同国とトランプ政権期アメリカとの関係のみに帰せられるものとはいいがたいです。中国のATT加入には、オバマ政権期の2010年代前半にATT交渉が行われていた際の中国による姿勢や行動との一貫性がみられるためです。

ATT交渉中の中国の行動には、
①ATT形成を支持し、多国間協調や国際規範の形成・維持に貢献する「責任ある大国」であるのだとアピールしようとする意図
②条約上の規制を十分に弱いものにすることによって、中国が「国際規範に反して武器を輸出している」と批判される可能性を低減しようとする意図
③一部の国々が国家安全保障にかかわる分野の交渉を強引に推し進めようとすることを牽制しようとする意図
が表れていました。

中国によるATT加入の背景を、上記①の意図の延長線上で捉えたうえで、トランプ政権の行動や最近の米中関係などが中国のATT加入を(筆者を含む多くの関連研究者や実務者による予想よりも)早めたと考えることもできるかもしれません。

ATT交渉時の中国の立場について、日本では不正確なメディア報道がしばしば見られました。例えば、日本の一部メディアは、2012年7月のATT交渉会議は米中露が反対姿勢だったために決裂したと報じましたが、これは必ずしも正確ではありません。

例えば、この交渉会議の最終日午後に米露は条約案の採択に反対しましたが、中国はこれに同調しませんでした。むしろ、中国は、この会議を通じて作成された条約案を評価する旨や、引き続きATT締結に向けた交渉にコミットしていく旨を述べていました。

また、日本の一部メディアは、2012年7月の交渉会議において中国が国際人権法に関する輸出許可基準をATTに盛り込むことに反対していたと報道しましたが 、これも厳密には事実と異なります。

確かに中国は、交渉会議に向けた準備委員会の段階では、国際人権法に関する輸出許可基準に反対していました。しかし、中国は2012年7月の交渉会議の後半になって、国際人権法に関する輸出許可基準を含めることを許容する姿勢を明確に示しました。

そして、そのような「譲歩」を行うと同時に、他の条項に関する自国の要求をATT草案に反映させようとしました。つまり、ATT交渉において、中国は国際人権法にまつわる輸出許可基準を駆け引きのためのカードに使ったのであり、最後まで反対してはいなかったのです。

その後、2013年3月にもう一度交渉会議を開催することを決定した2012年の国連総会決議の採決に際しても、中国は賛成票を投じました。2013年3月の交渉会議の最終日にも、中国は条約案の採択に反対しませんでした。

2013年3月の交渉会議では、イラン、北朝鮮、シリアが条約の採択に反対して交渉が決裂し、2013年4月2日の国連総会において、同じ条約案が採決にかけられました。

この時に中国は棄権票を投じましたが、この理由は、条約草案に不満を持っていたからというよりも、国家安全保障にかかわる軍備管理・軍縮の分野においてコンセンサス採択に失敗した条約を国連総会での表決により多数決採択するという方法が、その後の同分野の交渉において新たな「前例」として定着することに対する反対姿勢を示した側面が強かったといえます。

というわけで、ATT交渉中の中国の行動には、
①自国がATTの形成を支持する「責任ある大国」であることをアピールする意図
②条約上の規制を十分に弱いものにすることによって、中国が「国際規範に反して武器を輸出している」と批判される可能性を低減しようとする意図
③一部の国々が国家安全保障にかかわる分野の交渉を強引に推し進めようとすることを牽制しようとする意図
が表れていたといえるでしょう。

このように考えますと、上述のように、中国によるATT加入の背景を上記①の意図の延長線上で捉えたうえで、最近の米中関係などが中国のATT加入を早めたとと捉えることもできるかもしれません。それでは、中国のATT加入は、同国からの武器移転にどのような影響をもたらす可能性があるのでしょうか。次回の投稿で考察したいと思います。
なお、今回の投稿内容のほとんどは、今年3月に刊行した拙著『武器貿易条約:人間・国家主権・武器移転規制』(晃洋書房)からの抜粋です。詳しい情報が必要なかたは、図書館などでお手にとっていただけましたら幸いです。
なぜ、中国はATTに加入したのか?中国ってATT反対派じゃなかったの?

榎本珠良 著 『武器貿易条約:人間・国家主権・武器移転規制』(晃洋書房)


私自身、中国がこんなに早く加入するとは予想していませんでした。正直、もう少しくらいは時間がかかるのかなと思っていました。今後、考察を深めたく思っております。

(執筆:榎本珠良)

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