なぜ「紛争鉱物問題」は、特にコンゴにおいて大きな問題となっているのか?~その歴史的経緯や、現地での活動を通して見えてきた希望~
テラ・ルネッサンスは、豊富な鉱物資源の権益争いによる紛争に苦しむコンゴ民主共和国での支援活動を加速させ、紛争鉱物問題の解決とともに持続可能な社会の実現を目指しています。
テラ・ルネッサンスのコンゴ事業はこちら
コンゴでの活動を行うにあたり、多くの個人・団体の皆さまからあたたかいご支援をいただいています。その中の一社である株式会社ゲットイットさんは、ITハードウェアの導入からリサイクルまでのライフサイクル全体のサスティナビリティ向上を「Sustainable Computing ®」として掲げ、ITハードウェアの保守やリユースなどの事業活動を展開しています。そして、社会における真に持続可能なIT運用の実現を目指し、先進国におけるIT機器のライフサイクルの前後に存在する、紛争鉱物による問題や、E-wasteの問題にも着目しています。
これらの課題に取り組むための活動予算として「未来費」が新設され、その一部によって、テラ・ルネッサンスによる「紛争鉱物問題」の課題解決に向けたコンゴでの活動は支援されます。
今回、ゲットイットさんのプレスリリースに掲載していただいた、コンゴの「紛争鉱物問題」についてのコラムを以下に紹介いたします。わたしたちが協働して取り組むこの問題について、過去から現在、そして世界から現地という流れを通して、奥深く理解できる内容となっております。
ぜひ、ご一読ください!
(参照:https://www.get-it.ne.jp/news_20210419/)
-------------------------------------------------------------------
なぜ「紛争鉱物問題」は、特にコンゴにおいて大きな問題となっているのか?
~その歴史的経緯や、現地での活動を通して見えてきた希望~
寄稿:テラ・ルネッサンス理事長/海外事業部長(コンゴ事業担当) 小川 真吾
アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)は、アフリカ第二の面積を有する広大な草原とジャングルに覆われた自然豊かな国です。この国は長きにわたりベルギーの植民地支配を受けてきました。1885年のベルリン会議でヨーロッパ列強はアフリカ大陸を分割し、それぞれが支配する国を決めました。他の列強諸国が政府主導で植民地支配を進める一方、コンゴはベルギー国王の“私有地”として統治されることになりました。そのため、ベルギーの法律が適用されず、他のアフリカ諸国よりも恐ろしい人権侵害が繰り広げられたのです。それは、ベルギー王室からの一方的な行為だけではなく、元々その地域に住む人々の間でも行われるようになりました。統治の手段として、少数派の氏族(クラン)を支配層へと仕立て上げ、銃器を与えることによって他の氏族を支配させたからです。
その後、コンゴは欧米諸国の脱植民地化により、1959年に独立国家となりました。しかし、独立直後に内戦が勃発。全国土に及ぶ二度の内戦に直面し、2002年末に和平合意が達成されましたが、20年近くが経過した現在においても、民族や社会階層の間に対立が残り、人々の和解や共生が難しい状況に置かれています。 現在、コンゴには約130ともいわれる武装勢力(反政府組織、民兵、自警団、 また警察や国軍のうち独自の行動をするものなど多岐に渡る)が存在すると言われています。武装勢力は、地下資源の産出地域を勢力下に置き、不法な採掘や密輸によって利益を得て活動を続けており、そこには過去に先進国で生産された武器も運び込まれているといいます。武装勢力の影響下で産出されたレアメタルは、法的には「紛争鉱物」として取引はされないこととなっていますが、現に武装勢力の資金源が断たれていない事からも、こうした法規制が完璧に機能しているとは言えません。そして、子どもの徴兵、女性への組織的な性暴力など、深刻な人権問題が頻発するとともに、今なお多くの犠牲者と被害者を生み出し続けています。
コンゴは一人当たりの国民総所得が年間520ドル(2019年、世銀)と、世界で最も貧しい国の一つです。日本の外務省が出している海外安全マップ(※)を見ると、危険レベルが最高値の4の地域がいくつもあります。この地域では、武装勢力による散発的な戦闘が続いています。村が襲われることもあり、国内避難民の多さも大きな課題のひとつです。国内避難民は、逃げた先で自分の土地を持たないため、生きるために最低限の食べ物を作ることも出来ず、さらなる貧困に陥ります。そのため、世界的にも珍しく、コンゴの山村には物乞いで生活している人々がいます。また、例え仕事があったとしても、低賃金重労働で搾取されるようなものばかりです。
武装勢力から逃げ、家に帰ってくることができた元子ども兵から、こんな話を聞いたことがあります。彼と彼の家族は、お母さんが炭を運んで得たささやかな稼ぎで生活しているのですが、彼は「これだったら武装勢力にいた方が良かった」と言うのです。家に帰れば、家族と幸せに暮らせると思っていたのに、日々の食べものにも困るような貧困に喘ぐ生活だったからです。
こうして、戦闘状態が続くことにより、貧しさが拡がっていきます。せっかく逃げてきた元子ども兵たちも、貧困にたえられず、武装勢力の勧誘に負けてしまい、再び銃を手に戦う生活に戻ってしまうのです。これが、紛争が終わらない理由のひとつです。
テラ・ルネッサンスは、これまで元子ども兵や紛争の影響で性暴力の被害を受けた女性たちに対して、職業訓練を実施してきました。プログラムには、溶接の技術訓練があります。私たちの訓練を受けたある元子ども兵が、麻薬を作る技術を持っていました。麻薬は子ども兵たちから戦闘の恐怖を拭い去るために使われるため、とても重宝される技術です。その技術を聞きつけて、彼のもとに様々な武装勢力がリクルートに来るそうです。しかし、彼はそれを全て断りました。その理由は、「仕事が忙しいから」。彼のもとには、学校や教会の窓枠やドアを作ってほしいという依頼がたくさん届きます。彼はそれがとても嬉しいそうです。仕事があるのだから、わざわざ武装勢力に戻って人殺しをする必要はありません。例え紛争状態であったとしても、仕事を作っていくことが、紛争を止める力となり、さらに将来平和になったコンゴを支える人財を育てるためにも必要なのです。
この話には後日談があります。テラ・ルネッサンスのコンゴ事務所長(コンゴ人)のもとに、武装勢力から殺害予告が届いた時期がありました。すると、何人かの元子ども兵たちが、「テラ・ルネッサンスは良いことをしてくれている団体なのだから、危害を加えるな」と、武装勢力に話をつけにいってくれたのです。おかげで、殺害予告はぴたりと止みました。支援している側だったはずが、いつの間にかお互いに支え合う関係になっていたのです。
レアメタルをはじめとする、コンゴの地下に眠っている豊富な資源。これがなんとしても欲しい人々がいます。そのために、コンゴの紛争は止まりません。コンゴの紛争は、私たちの暮らしと無関係ではありません。レアメタルは、私たちが毎日使っているパソコンやスマートフォンのために不可欠だからです。つまり、レアメタルが欲しいのは、“私たち”です。だからといって、パソコンやスマートフォンを使わないわけにはいきません。私たちのビジネスのやり方を変えていく必要があります。国内にあるレアメタルをリサイクルする、武装勢力の資金源となることが疑われるルートからのレアメタルの調達は行わないようにするなど、紛争に苦しむコンゴの人々が安全に安心して暮らせる環境を、私たちは作ることが出来るのです。
※ 外務省海外安全ホームページ::コンゴ民主共和国の危険情報https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2020T147.html#ad-image-0