【TSC東京定例会開催レポート】 すべての人に、未来をつくる力がある
すべての人に、未来をつくる力がある
── TSC東京 定例会 鬼丸昌也 講演レポート
テラ・ルネッサンスサポーターズクラブ東京 定例会 / 2026年9月3日(木)18:00開会
会場:The Place of Tokyo
2026年9月3日(木)、テラ・ルネッサンスサポーターズクラブ(TSC)東京の定例会が開かれ、 約80名の皆さまが集いました。この日の中心は、テラ・ルネッサンス創設者の鬼丸昌也による講演です。福岡の山あいで育った少年が抱いた「なぜ世界は平和にならないのか」という問い。スリランカでの出会い、カンボジアの地雷原、そしてウガンダの元子ども兵の社会復帰支援を経て、いま「持続可能な経営を目指す経営者を増やす」ことに力を注ぐまで。本稿では、当日の流れに沿ってその内容をお伝えします。
開会 ── 山口さんが語った「支援するということ」

司会を務めたのは、TSC東京の山口勝宏さん(株式会社FISソリューションズ 代表取締役社長)です。当日のスケジュールを紹介したのち、TSCは毎月5,000円以上を継続して支援する法人サポーターの集まりであること、毎月途切れず届く支援があるからこそ、現場が見通しを持って活動を積み重ねられることを説明しました。関東近県の法人サポーターであればどなたでも参加できることをお伝えしました。
続いて山口さんは、自身の体験を語りました。新型コロナウイルスの流行直前、ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援の現場を訪れたときのことです。洋裁の技術を身につけ、自ら洋裁学校を開いた元少女兵の女性を訪ねた日の朝、学校では設備の多くと完成した製品が盗まれていました。経営者であれば、視察を迎えるどころではない状況です。それでも彼女は、一行を迎えてこう語ったといいます。
「皆さんのおかげで身につけた洋裁の技術はなくならない。誰にも盗まれないから、私は大丈夫です。皆さんは、次の私たちのような少女兵を救うために、ぜひ寄付をお願いします」
支援をしているつもりが、むしろこちらが勇気をもらっていた。山口さんはそう振り返り、支援とは「かわいそうな人を助けること」ではなく、自分自身がよりよく生きていくための一つの道なのだと語って、鬼丸の講演へとつなぎました。
講演① ── 山あいの少年が抱いた問いと、スリランカで受け取った言葉
壇上に立った鬼丸は、まず、この会が法人サポーターの皆さん自身の主催で開かれていることへの感謝を述べました。寄付をするだけでなく、自らの時間と人のつながりを使って、活動を多くの人に伝える場をつくってくださっている、と。現在は理事長ではなく理事として、世界の現場よりも、日本各地で課題の背景と構造を伝える役割を担い、年間100回から120回ほど講演に立っているといいます。
話は、鬼丸の原点から始まりました。生まれ育ったのは福岡県の山あいの村。小学生のころに冷戦の終結を知り、「これで平和になる」と思ったものの、世界には紛争や社会課題があふれていました。「なぜ世界平和にならないのだろう」。高校生のころから考え続けたその問いに、いまも明確な答えは見つかっていないといいます。ただ、鬼丸は「わからなくていい。答えを探すプロセスそのものが、いまの取り組みなのだと思っています」と語りました。
転機は、高校3年生で参加したスリランカへの10日間のスタディツアーでした。最終日、ノーベル平和賞の候補に3度挙がった、サルボダヤ運動の創始者の博士と対話する機会を得ます。「世界を変えたいか」と問われ、勢いで「はい」と答えた鬼丸に、博士はこう語りました。
「世界を変えるのに、特別な知識はいらない。特別なお金もいらない。すべての人に、子どもでも年寄りでも、男でも女でも、障害があってもなくても、その人とその人が暮らす地域の未来をつくる力がある。大事なのは、その力があることを信じることだ」
証明のしようがないからこそ、まず信じることから始める。当時は十分に理解できなかったというその言葉が、のちに鬼丸を支えることになります。

大学4年生のときにカンボジアを訪れ、地雷の被害者の話を聞きました。地雷や不発弾は、戦争が終わったあとも人の命と暮らしを奪い続けます。カンボジアに残る地雷を取り除くには、あと600年かかるとも言われていると紹介し、鬼丸は「地雷は過去の問題ではなく、いまの問題であり、これからの問題でもある」と語りました。
何かしたい。けれど、地雷を除去する技術も、寄付できるお金も、英語力もない。「できないことばかり」と気づいた鬼丸は、ふと、博士の言葉を思い出します。自分にできることを探してたどり着いたのが、「人に伝えること」でした。帰国後、友人10人ほどを集めて開いた初めての報告会は散々な結果で、中学2年生の女の子が会場から走って逃げ出した光景を、いまも鮮明に覚えているそうです。それでも諦めず、呼ばれればどんな場所でも話し続けて25年。聴いてくれた人は、約24万人になりました。
ささやかな営みも、心を込めて繰り返せば、何かが変わっていく。鬼丸は、子どもの自転車の練習になぞらえて語りました。
「人や組織や地域は、変えるものではなく、変わるものなのだと思います。変わるまで、やり続けるんです。どんなに小さくても、どんなにささやかでも」
気づいたときには変わっていて、それが当たり前になっている。平和もきっとそうで、本当に世界が平和になったときには、「平和」という言葉すらなくなっているはずだと、鬼丸は続けました。
講演② ── 元子ども兵が教えてくれた「人は変われる」

カンボジアでの経験をきっかけに、鬼丸は2001年にテラ・ルネッサンスを設立しました。いまでは世界10カ国で活動し、スタッフは日本人約20名、外国籍のスタッフを含めて約220名。年間約6億円規模の資金のうち、半分は皆さんからの寄付で賄っているといいます。日本政府の補助金や助成金の対象になりにくい地域でも、責任を持って、自由に、本当に必要な場所で使えるのは、信頼して支えてくださる支援者の存在があるからだと、鬼丸は感謝を述べました。
最も力を入れてきた課題が、子ども兵の問題です。子ども兵は男の子だけではなく、女の子も含まれ、戦うだけでなく、荷物の運搬や食事づくり、性的な暴力の対象にもされます。世界には、いまも約25万人から30万人の子ども兵がいるとされています。2003年にこの問題を知った鬼丸は、日本には情報がほとんどなかったため、自ら現場へ向かうことを決めます。2004年2月、向かった先がウガンダ北部でした。当時は、神の抵抗軍という武装勢力と政府との内戦が23年近く続き、世界の子ども兵の約6割が自ら兵士になるといわれる中で、ウガンダでは99%が誘拐によるものでした。
日本に戻った鬼丸は、160回ほど講演を重ねて約2,000万円の寄付を集め、現地で活動するスタッフとともに、2005年から元子ども兵の社会復帰支援プロジェクトを始めます。毎年20名から30名を、ウガンダ北部の施設「スマイルハウス」に迎え、支援は一人あたり3年間。最初の1年半は、心のケアや生活に必要な知識、そして洋裁や紙工芸、家具、大工といった、地元の市場ですぐに生かせる職業訓練に取り組みます。送迎や給食、子どもを抱える元少女兵のための子どもの預かりも組み合わせた「ハイブリッド型支援」です。続く1年半は、一人ひとりが事業計画を立て、寄付を原資とした開業資金の貸し付けを受けて、実際に自分の店を営みます。
その成果として、元子ども兵の月収は56倍になりました。調査当時の累計で317名、家族を含めて2,687人が、この支援の恩恵を受けています。数字以上に鬼丸が大切にしていると語ったのは、周囲の村人との関係が少しずつ改善していったことでした。自立には、複数の収入源に加えて、複数の「依存先」、つまり多様な人間関係が欠かせない。そして関係が変わった理由を調べていくと、働くことを通じて自尊心が高まったことにたどり着いたといいます。
鬼丸は、一人の元少女兵の女性を紹介しました。13歳で誘拐され、2年間を組織で過ごした彼女は、故郷に戻ると、大好きだった人たちから「帰ってこなくてよかった」と言われます。そんな彼女が洋裁の技術を身につけて自分の店を持つと、村の若い女性たちが「どこで学べるのか」と訪ねてくるようになりました。ウガンダ北部には、無料で洋裁を教える学校はありません。彼女は隣の部屋を借り、自ら洋裁学校を開きました。これまでに学んだ女性は、延べ180名にのぼります。「助けられる側が、助ける側になる」。鬼丸は、元子ども兵たちから学んだことを、こう語りました。
「人はいつからでも、いつまでも変わることができる。ただし、その人が本気で変わりたいと思ったときです。だから私たちは、その人が本気で変わりたいと思える条件や環境を整えていくのだと教わりました」
さらに2023年、支援を受けて社会復帰した元子ども兵たちが、いまも神の抵抗軍に残る元子ども兵のもとへ向かい、「帰ってきても大丈夫だ」と呼びかけました。その結果、同年11月に、141名の元子ども兵とその家族がウガンダに帰還します。鬼丸は、これを繰り返せば、40年以上続くアフリカ最長の紛争を、武力を使わずに終わらせられる可能性があるとし、3年から5年のうちの解体を目指していると語りました。
「この世界に必要なのは、暴力以外の方法で紛争を一つでも終わらせることです」
この取り組みは、ドキュメンタリー映画『RETURNEES』にもなりました。会場では予告編も上映され、鬼丸は、各地での自主上映への協力も呼びかけました。
講演③ ── 持続可能な経営を目指す経営者を増やす

講演の終盤、鬼丸は、企業経営者の方々へ語りかけました。世界の紛争の多くは、宗教や民族の違いというより、スマートフォンやパソコンに使われるレアメタル、鉱物、石油といった資源やエネルギーをめぐって起きている。現場に立つほど、そう実感するといいます。だからこそ、現地で苦しむ人を支えるだけでなく、「元栓」にあたる経済の仕組みそのものを変えなければならない。今だけ、ここだけ、自分だけがよければいい経済から、未来も、世界も、みんなも栄える持続可能な経済へ。それが、テラ・ルネッサンスが経営者との連携に力を入れている理由です。
かつては経営者を「悪いことをしている人」だと思っていた、と鬼丸は明かします。その認識を変えたのが、伊那食品工業の塚越寛さんでした。48期連続の増収増益を続け、人を切ったことがない会社として知られます。その塚越さんが、公の場で初めて語ったという言葉を、鬼丸は紹介しました。
「私には野心がありました。それは、社員をどれだけ大切にしても経営は成り立つということを、この世で証明したかったということです」
テラ・ルネッサンスは、持続可能な経営を「その組織に関わる人(ステークホルダー)が、その組織の永続を幸せに感じること」と定義しています。ただ、一人で目指せば心が折れてしまうからこそ、仲間とともに目指すムーブメントが必要です。その受け皿として生まれたのがTSCで、いま国内7拠点に広がり、12月には福島を中心とした南東北でも設立が予定されています。台湾にもあり、タイのバンコクでの設立も構想中です。将来は、各都道府県に一つ、東アジアから東南アジアの各国に一つから五つを目指すといいます。
「経営の前には、国境がありません」と鬼丸。どの国の経営者も、人繰りや資金繰り、理念の浸透に悩み、関わる人を幸せにしたいと願っています。そうした経営者同士が国を超えて交流する網の目が広がれば、それは最大で最高の安全保障になる。事業を通じて平和をつくる「ビジネス・フォー・ピース」を、アジアから世界へ広げたいと語りました。
最後に、鬼丸は会場に問いを投げかけました。お客様、従業員、取引先。経営者にとっての「ステークホルダー」は誰でしょうか。そこに、これから生まれてくる子どもたちを加えてほしい、と。
「その子たちは、声を上げることができません。投票権もありません。100年後、1000年後の子どもたちが、この時代に生まれてきてよかったと思えるために、私たちは自分の会社の何を考え、何を守らなければならないのでしょうか」
法人サポーターのご案内と活動事例 ── 鈴木竜太・酒向幸枝さん
続いて、テラ・ルネッサンス職員の鈴木竜太(啓発事業部)が、法人サポーターの仕組みを案内しました。鈴木は2017年に鬼丸と出会い、2018年のウガンダ訪問を経て、法人サポーターとして活動したのち、2025年12月に職員となりました。法人サポーターは、一口5,000円の支援を通じて活動を応援しながら、持続可能な経営を目指す経営者の集まりです。参加する経営者に「なぜ応援してくださるのですか」と尋ねてきた中から、2社の声が紹介されました。

京都のワタナベ美装株式会社の渡邉社長は、「寄付ではなく、投資だと思っている」と語ります。このままでは世界が成り立たず、本業も成り立たなくなる。自分にはできない世界の平和につながることを、寄付という形で投資しているのだ、と。もう一社、立川のつばさホールディングス株式会社の猪股社長は、「寄付ではなく、共に育てる」と語ります。テラ・ルネッサンスの現場から学ぶことが、社員の成長につながっているというのです。
TSCの活動としては、全国7拠点で年4回開かれる定例会(年間で計28回)のほか、9月10日・11日に東京で開催される全国の法人サポーター交流会と、人を大切にする経営を実践する企業への視察があります。この視察では、東京駅で新幹線の車内清掃を7分間で行うことで知られる企業を訪問する予定です。さらに、11月からは、法人サポーター向けのオンライン勉強会も始まります。法人サポーターは無料で参加でき、社員の方も無料です。経営者と社員が同じ視点を持つ場にしたい、と鈴木は呼びかけました。
活動事例として登壇したのは、株式会社Sceneryの酒向幸枝さん(代表取締役)です。マーケティング関連の事業を営む酒向さんは、2023年5月にウガンダのスマイルハウスを訪れたことをきっかけに、キャラクター事業の収益の一部を平和活動に循環させる取り組みを始めました。主人公は、世界征服を目指す「ピースくん」。ところが、彼が活動するほど、なぜか周りに喜ばれ、世界がどんどん平和になっていく──そんな物語を発信しています。

今年6月には、テラ・ルネッサンスの25周年を記念したチャリティステッカーを、全国のコンビニプリントで販売しました。デザインに込めたのは、「微力だけど、無力じゃない」「ひとり一人に未来をつくる力がある」といった、テラ・ルネッサンスが大切にしてきた言葉です。コンビニプリントでの販売は、TSC東京の山口さんの力添えで実現したといいます。ほかにも、SNSでの発信、コラボ商品やイベントの企画、学校での平和ワークショップに取り組み、今年11月には、ウガンダの農村地域で壊れた井戸を再生し、約600名の地域住民に安全な水を届けるプロジェクトも予定しています。
酒向さんがTSCに加わったきっかけは、昨年の鬼丸の講演会と懇親会でした。そこで山口さんにやりたいことを話すと、「コンビニで販売できる仕組みを持っている人がいるから紹介します」と、初対面ですぐに動いてくれたといいます。「平和のために、一緒に動いてくださる方々がいる」。短い期間ながら実感したと語り、会場に仲間になることを呼びかけました。
締めのご挨拶 ── 大塚さんが語った「みんなで一歩ずつ」
締めの挨拶に立ったのは、TSC東京の大塚雅之さん(大塚実業株式会社 代表取締役社長)です。大塚さんは、事業を通じて向き合う水資源の課題に触れ、世界の人口が増えるなかで、限られた資源をどう有効に活用するかが問われていると語りました。

そして、経営者である自分たちは社員の成長や会社の存続を目指す一方、テラ・ルネッサンスは、自分たちの活動が必要なくなる世界を目指している。一見すると逆の立場に見えても、目指す方向は同じ「みんなを幸せにすること」だと述べました。この日聞いた話は真実であり、それを聞いた経営者として、どう一歩を踏み出すのか。それぞれの判断に委ねたうえで、こう呼びかけました。
「一人で世界を変えることはできません。けれど、一人ひとりの微力が集まれば、みんなで一歩ずつ進むことができます」
せっかく今日出会った仲間です、と大塚さん。TSCは、そのきっかけの場でもあると結び、会はそのまま、会場を移しての懇親会へと続きました。
おわりに
この日の登壇者の言葉は、それぞれ異なる場面から語られながら、一つの方向を指していました。山口さんが語った、支援する側が勇気をもらうという実感。鬼丸が紹介した、元子ども兵の女性が自ら学校を開いたという事実。酒向さんの、「微力だけど、無力じゃない」という言葉を形にした挑戦。そして大塚さんの、「みんなで一歩ずつ」という呼びかけ。いずれも、特別な力を持つ誰かではなく、一人ひとりの内にある力を信じるところから始まっています。
持続可能な経営を目指す経営者が国や地域を超えてつながること。その網の目が広がることが、平和をつくる一つの確かな道になる。法人サポーターの皆さんとともに歩むテラ・ルネッサンスにとって、この夜は、その実感を分かち合う時間となりました。
「すべての人に、未来をつくる力がある」。その力を信じることから、私たちの次の一歩は始まります。
レポート:テラ・ルネッサンス 啓発事業部 鈴木竜太
TSC東京 定例会|2026年9月3日(木)|会場:The Place of Tokyo
登壇者プロフィール
鬼丸 昌也(おにまる・まさや)
認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事。福岡県出身。大学在学中にカンボジアで地雷被害者と出会い、2001年にテラ・ルネッサンスを設立。以来、カンボジア、ラオス、ウガンダ、コンゴ民主共和国など世界10カ国で、地雷、小型武器、子ども兵、平和教育の課題に取り組む。講演は年間100回以上、これまでの聴衆はおよそ24万人にのぼる。共著に『ぼくは13歳、職業、兵士。』。



