【企業インタビュー】知ったからには、見過ごせない
── 栃木発・濾布メーカーが選んだ、「共に歩む」支援のかたち
取材日:2026 年 6 月 17 日 取材場所:大塚実業株式会社・東京支店(東京都千代田区)
取材・文:鈴木竜太(認定 NPO 法人テラ・ルネッサンス 啓発事業部)
大塚実業株式会社(栃木県足利市)は、1973年の創業以来、濾布(ろ布)の製造一筋に歩んできたメーカーです。日本酒の搾り、食用油の精製、プリンター用トナーの製造、ハイブリッドカー用バッテリーの材料など、さまざまな産業の「縁の下」を静かに支える濾布という存在は、同社の姿そのものを体現しています。
2017年8月から法人サポーターとなり、現在はTSC東京のお世話役も務める代表取締役社長の大塚雅之さん。テラ・ルネッサンスとの出会いから支援を続ける理由、そして社会貢献とビジネスへの向き合い方について、率直な言葉で語っていただきました。(取材・文:鈴木竜太)
1 足利の工場で聴いた「伝説の講演」──テラ・ルネッサンスとの出会い
―――テラ・ルネッサンスを最初に知ったきっかけを教えてください。
大塚さん:もう10年以上前になりますが、当時関わっていた経営者の勉強会の仲間が、鬼丸さんを栃木・足利の市民会館に招いて講演会を開いてくれたんです。社員を何人か連れて行ったのですが、それが今でも「伝説の講演」と呼んでいる出来事です。
鬼丸さんが高熱を出しながらも、力を振り絞って聴衆に向けて話してくださったんです。その姿に感動をした参加者の8割が号泣するという、あのエネルギーと気持ちのぶつかり方が、本当に普通じゃなかった。
鬼丸さんのお話がテクニカルに上手くなる前の、とにかく気持ちをぶつけてくるような講演で。それが非常に心に刺さりました。 翌日、うちの営業マン(当時50歳ぐらいの)が「アフリカに行きます、会社を辞めます」と言いに来たくらいで(笑)。さすがにそれは引き止めましたけれど、あの講演にはそれだけの力があったんです。

2 「知ったからには、見過ごせない」──支援を続ける理由
―――その場でほぼ即決で法人サポーターになられたとお聞きしました。どんな思いがあったのでしょうか。
大塚さん:ユニセフやピンクリボンなど、世の中にはいろんな活動があることは知っています。でもそれをちゃんと理解しているかといったら、なかなかそうではない。テラ・ルネッサンスの活動は、鬼丸さんから直接お話を聞いて、どんな場所でどんな人たちが関わっているのかをわかった上で入ったんです。
知ってしまったからには、もう見過ごすことができないような内容でしたから。それに尽きます。
3 「してあげている」意識はない──もらっているものの大きさ
―――ビジネスと社会貢献の両立について、どのようにお考えですか。
大塚さん:僕の中には「誰かを助けている」「してあげている」という意識が、ほとんどないんです。
まず知ったから、できることをする。知ったことを忘れてはいけないから続けていく——そういう感覚があって。そこで得た気づきを、自分のビジネスにどう活かすかを考えています。
むしろ、してあげているよりも、もらっているものの方がずっと多いと感じています。生の声が聞けて、リアルな情報がわかる。紛争をなくすためにどんな活動が行われているか、世界の動きをダイレクトに知ることができる。そういう情報は、インターネットで調べても得られないものです。
本業がどうとか、そういう話ではなく——「してあげているつもり」でいたら、実はしてもらっていることの方が多い。そういう感覚で続けているから、僕の中では社会貢献とビジネスの間に線はないんです。

4 「自分たちがいない方がいい」──テラルネが示す逆説
―――テラ・ルネッサンスの活動を長く見てこられて、独自だと感じることはありますか。
大塚さん:3〜4年前に気づいたんですけど、普通の企業は永続を目指しますよね。でもテラ・ルネッサンスは、逆のことを目指している。紛争がなくなれば、支援の必要もなくなるから、最終的には自分たちが必要なくなるようにしたいと。
自分たちの存在がなくなることを目標に、全力を注いでいる。ある意味、永続させるよりも大変なことだと思うし、そこに真剣に向き合っているというのは、すごく難しい矛盾したことをしているな、とずっと感じています。
先日の25周年のイベントでも「僕たちの最終目標は失業することです」とおっしゃっていましたが、企業と全く逆なんですよね。そういう感覚で全力で動けるというのが、本当にすごいなと思います。
5 まずやってみればいい──次世代リーダーへのメッセージ
―――テラ・ルネッサンスのことは知っているけれど、まだテラ・ルネッサンスとの接点がない方々へ、メッセージをいただけますか。
大塚さん:語弊を恐れずに言えば、「なぜ無関心でいられるのか」という思いが、正直あります。
リーダーと呼ばれる立場の方、経営者の方であれば、社会課題が巡り巡って自分自身の課題でもある——そのことは、きっと理解できると思うんです。それをリアルに理解したときに、なぜ何もしないのか。そこが、僕にはわからなくて。
月5,000円が難しくても、月100円でも10円でもいい。大切なのは、関心を持ち続けること、関わり続けることだと思います。投票に行っても日本は変わらない、と感じる人もいるかもしれない。でも、そういうことではないと僕は思っています。
とにかく一歩踏み出すことに意味がある。踏み出すことを躊躇していたら、失敗も成功もできないまま。成功か失敗かという分岐ではなくて、失敗も成功も、同じ一本の道の上にある。やるかやらないかは、本当は別々の選択肢ではないと思うんです。
──ありがとうございました。

取材後記
今後はTSC東京のお世話役として、仲間の輪をさらに広げていきたいと語る大塚社長。インタビューを通じて印象に残ったのは、大塚社長が一度も「支援をしている」という言葉を使わなかったことです。知って、動いて、続けている——その姿には、肩に力の入った「社会貢献」とはまた別の自然さがありました。
私自身も、2017年に初めて出会った鬼丸さんの言葉で「知ってしまった」ひとりです。大塚社長のお話を聞きながら、あのときの感覚を改めて思い出しました。「知ったからには、見過ごせない」——その言葉は、テラ・ルネッサンスをめぐる多くの出会いに通底する、共通の出発点なのかもしれません。(鈴木)
プロフィール
大塚 雅之(おおつか・まさゆき)|大塚実業株式会社 代表取締役社長
栃木県足利市出身。1973年創業の濾布メーカー・大塚実業株式会社を率いる。濾布は日本酒・食用油・電子材料など幅広い産業を支える縁の下の存在であり、その製造に特化した専門メーカーとして50年以上の歴史を持つ。2017年8月よりテラ・ルネッサンス法人サポーターに参加。TSC東京の発足メンバーのひとりであり、現在もお世話役として活動の場を広げている。
取材・文:鈴木竜太(認定NPO法人テラ・ルネッサンス 啓発事業部 ファンドレイジングマネージャー)
※掲載内容は取材当時のものです。



